研究開発部教員紹介 岩附 信行 特任教授
はじめに
2025年4月1日付けで研究開発部に着任し、高等専門学校の機関別認証評価の業務を担当することになりました。採用にあたり、多くの皆様にお世話になりました。厚く御礼申し上げます。また着任後には、飛原客員教授をはじめ認証評価担当の事務職員の皆様、当機構に順応するためには総務課事務職員の皆様にありがたいご教示をいただいており、深く感謝しております。
これまでの研究・教育・運営履歴
1978年4月の東京工業大学入学以来、大学院博士後期課程修了、その後も教員として就職し、2025年3月に定年退職いたしました。ただ、定年直前に大学が東京医科歯科大学と統合し、東京科学大学となりました。
研究分野は、機械工学の機械運動学および機械力学で、ロボット機構の設計・運動制御と機械騒音の低減化・快音化に関する研究を行っていました。卒業論文研究で行った、モータ1個で動作する2足歩行機械で当時の世界最高速度を打ち立てたことが誇りであり、工学研究者を目指し、続ける動機となりました。
年ふるにつれ、研究・教育だけでなく組織運営の仕事、とくに教育組織・カリキュラムの改革を先導することが増えていきました。それらは当機構の業務対象の参考モデルにもなっております。まず、機械工学系1年生の主任として、機械工学系新入生の創造性実習授業:機械工学系リテラシーの革新を図りました。東京工業大学では、1年次は教養教育・自然科学教育が大半を占め、それらの成績と自らの志望に沿って2年次で専門学科に所属するため、その途中で工学に対する動機を見失って、堕落する学生も見受けられ、留年率が高くなるという問題がありました。このために、週に1度、級友が集まって「ものつくり実習」を行う実習を導入し、特に創造性を刺激する実習を心掛け、学生の出席を促して他科目の学習にもつなげました。結果的に留年率を激減させることができ、この取組は日本工学教育協会教育賞を受賞しました。
さらに学科長に就任した際には、学科カリキュラムの大改革を行いました。当時、東京工業大学には4つの機械系学科があり、ほどよい競争を行っていましたが、学生の人気は偏っており、筆者の所属する学科のアイデンティティを明確にするべく、「レクチャー・ラボ統合型授業」という、1日1コマで講義と実験・実習が一体という授業を創設し、分野ごとの教員チームが共同で授業を行うことにより、学修効果を高めるものです。この取組も日本機械学会の教育賞を受賞しました。
もちろんこれらの成果は、筆者一人ものではなく、それぞれの教員組織の教員チームの真剣な問題提起・解決策提案・実行に基づくもので、思えば、当時あまり意識することなく、内部質保証を実践していたように思います。また、いずれも所属学生が愉しくかつしっかりと学修できる環境作りが目的です。
さらに、大学全体の教育改革・組織改革の一翼を担うことになりました。2016年の東京工業大学の学部・大学院組織の再編に、新たに誕生した工学院の学院長に任命され、学院本体さらに学院所属の各系・大学院課程の各コースの3ポリシーの設定に頭をひねったことが思い出されます。教育体制、組織運営体制、予算執行体制、産学連携体制など、種々構築しつつ、3年後には工学院の外部評価を実施しました。この外部評価は教育カリキュラムの詳細まで踏み込むことはありませんが、さらに、日本技術者教育認定機構(JABEE)による評価認証を所属2系で受けることができました。これは、教育の質保証はもとより、その国際的同等性を確保して留学生を確保することを強く意識したものでしたが、なかなか全学的に理解を得ることはできず、参加系を増やすには至りませんでした。未だ、教育の質保証が根付くのは難しいことを実感しました。
当機構との関わり
2007年に、前述の「レクチャー・ラボ統合型授業」に基づく学科のカリキュラム改革について、当時の大学評価・学位授与機構の依頼で、機構が刊行する書籍「大学評価文化の展開 評価の戦略的活用をめざして」に、寄稿したことが始まりです。恥ずかしながら、大学評価を業務とする公的機関があることを初めて認識しました。
その後、2009年から機構の機械工学部会専門委員へのお誘いを受け、2025年3月まで16年間、学士・修士・博士の学位授与審査を務めました。多くは高等専門学校専攻科修了生の学士の学位授与審査で、当該学生の学修成果を読み、その成果内容と背景となる学修を問う試験問題を作成、試験実施、採点、合否判定を行うものです。このとき、高等専門学校の教育システムとくに専攻科課程について理解することができ、これまで、高等専門学校本科修了後に大学の学士課程編入で、あるいは専攻科修了後に大学院修士課程に入学してきていた研究室の高等専門学校出身者の優秀さを理解することができました。他方、何度も不合格となる学生を担当したこともあり、本人への結果のフィードバックの難しさも感じました。
専攻科課程の学生の学位授与はその後、特例適用専攻科の学生の学位授与に移行し、高等専門学校が「学修総まとめ科目」に基づいて学生を評価して、当機構がその履修に関する審査をする形になりました。試験問題作成・採点に割く時間は減少しましたが、特例適用専攻科認定のための高等専門学校教員の業績やカリキュラムの審査がとても緻密になり、それをクリアするための高等専門学校教員の先生方のご尽力にも思いをはせました。
修士、博士の学位授与審査は、防衛大学校や職業能力開発総合大学校などの課程修了者の審査であり、東京工業大学と同等以上に論文審査、口頭試問を行っていました。総じて、研究成果は素晴らしく、また実にハキハキと明確に説明される申請者が多く、筆者の研究指導の参考にさせていただきました。
それから、2023年からは新たに大学機関別認証評価委員会専門委員にも就任し、これまで所属大学では関与してこなかった機関別認証評価を体験し、その膨大な提出資料と、それをチェックされる機構教員の先生方と事務職員の皆様のお仕事に感動しておりました。2024年に当機構研究開発部教員の公募があり応募しました。これまでの関わりを見込まれてか、面接選考を経て無事採用され、東京科学大学の定年を待って、着任しました。
理工系人材増加のための取組
もちろん当機構は我が国の高等教育機関の改革支援と認証評価を担当していますが、厳しい少子化の中、それら高等教育機関が教育すべき学生の確保も極めて重要となっています。
とくに筆者の分野である工学系については、我が国は主要先進国の中でも工学技術者・研究者の割合が低く、工業立国が脅かされる状況です。とりわけ、女性技術者・研究者が少なく、そのことが30年の停頓を呼び込んだとする意見もあります。
筆者は、前述の東京工業大学機械工学系1年生の主任を務めた2008年から、今後の少子化に備えて、理工系に進む学生を確保することを目的として、小・中・高校生への出張出前授業を始めました。特に、工学=ものつくりの愉しさに触れてもらうために、座学だけでなく、安全に短時間で廉価に実施できる「ものつくり実習」を実施しています。歩行ロボットの脚機構模型、振動を利用して走るゼンマイホース、モータ1個で動く4足歩行ロボットなどの試作授業を大学同窓会や教育財団の助成を受けながら続けています。受験のみにとらわれず、好奇心に満ち溢れてきらめいている受講生と触れ合うのは楽しいものです。
このような人材勧誘の取組は、当機構が対象とする高等教育機関、とくに高等専門学校でも、社会に情報を公表していく中で、そのような学問の魅力を伝えていく活動を進めていただきたいと考えますし、当機構もそのような活動を高く評価できればと思います。
おわりに
高等専門学校機関別認証評価業務では、皆様の指導を受けつつ懸命に学んでいる最中で、まだまだ未熟者ですが、感じるところもあります。高等専門学校の第三者評価は、当機構による機関別認証評価だけでなく、専攻科の特例適用専攻科認定、JABEE認定、さらには「国立高専教育国際標準(KOSEN International Standard:KIS)」に基づく質保証の認定も始まっています。それぞれ目的と所掌するところが異なっているものの、重複的なところもあるかと思います。例えば、相互活用をもっと容易にして、評価する側もされる側もサスティナブルなものとならないか。何より高等専門学校の学生が愉しく、充実した学修ができるような教育の質保証となるよう、貢献できればと考えております。今後ともよろしくお願い申し上げます。
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